人前で脱ぐことに抵抗がない人間などいるのだろうか。
ましてやそれが身体的なコンプレックスを抱えている人間だったらなおのこと強い抵抗を抱くのではないか。
プールの授業や海水浴、温泉など、一見リア充の楽しい催し物だがこれらに共通して「人前で脱ぐ」という苦行が必ずセットでついてくる。
よってコンプレックス保持者はこれらのイベントの前に入念な準備が必要となってくる。
準備期間は悩みによってそれぞれ異なる。
太ましいということが悩みの場合は長期戦になること間違いなし。
2週間位前からダイエットと呼ぶにはあまりにお粗末なゆるゆるとした食事制限をはじめ、効果のないまま前日を迎える。鏡の中の自分を見て愕然とする為、結果前日は絶食。
当日は水分すら取り入れない、常時お腹は凹ましてスレンダーアピールという徹底ぶり。一瞬の気のたるみが命取りとなる。
「結構あれだね、着痩せするタイプだね」などと言われた日にはもう一生立ち上がれないほど凹むが、翌日には立ち上がって豪快に食べ物を胃袋に詰め込んでいたりする。
では、毛が濃い、というコンプレックス保持者は…。
こちらは長期的な準備期間は必要ない。しかし一球入魂。前日のムダ毛処理に一切のミスは許されない。
腕、足、背中、そして特に重要なのは脇とアンダーヘア。
この二箇所のミスは絶対に許されない。
もし万が一当日剃り残しを発見しようものならその瞬間に帰路につくことも辞さない。
「いっその事永久脱毛をしてしまおうか。」
毛深い、毛深くないに関わらず脱毛という行為自体の煩わしさを知っている者なら一度は考えたことがあるのではないだろうか。
しかし脱毛サロンの扉を叩くことについて具体的に考えた時、熟考系の女子はここで一つの大きな壁にぶち当たる。
「脱ぐの?」
「脱ぐよね?」
そう、脱ぐのだ。
コンプレックスである部分をまずはまるっと他人に公開しなければいけないのだ。
もし万が一笑われたりしたら。
もし万が一面倒臭そうな顔をされたら。
もし万が一、他人のそれと自分のそれが極端に違っていたら。
スタッフ同士の連絡ノートに面白おかしく書かれて共有されて、当事者意識が薄れきったところまで広まった暁にSNSに投稿されて世界中に拡散されてしまったら!
低賃金で酷使されていることは重々承知の上でのお願いだが、どうか脱毛サロンのスタッフの皆様はポーカーフェイスでさらに守秘義務については絶対に守ってください、と切に願うのであった。